オペラの登場人物で人格適応論を説明しようとしたとき、意外にも一番難しいのが「信念型」です。オペラでは「信念型」はとてもたくさん登場します。正義のヒーローでも、悪役でも登場します。雰囲気はみているとわかりやすいものの、セリフで説明するとなると結構難しいです。
それでも、今日はこの課題にチャレンジします。

「信念型」の方はどういう特色をもっているでしょうか。文字通り、自分の信念を明確にもち、固執するタイプの方々で、この文章を書いている私自身も信念型です。他の適応タイプに比べて不安感が強いため、慎重で用心深く、その不安感を乗り越えるために自分の信念にこだわりをもち、本物を目指し続けます。そしてその不安感を埋めるため、自分の考え(信念)を認めてもらいたい、という欲求を強くもっています。
慎重で用心深い、という意味では人を信頼するのが難しく、自分の考え(信念)を認めてもらいたい、という意味では信頼を大切にする、そんな側面ももっています。

ヴェルディのオペラ「オテロ」では「信念型」の男性2人が疑心暗鬼ぶりを発揮します。原作はシェイクスピアですから、ご存じの方はオペラでなくてもご理解いただけると思います。この男性2人は誰のことか、というと、オテロとヤーゴです。
オテロは将軍、ヤーゴはその旗手。ヤーゴはオテロが戦争に勝ったとき、カッシオが副官に抜擢されたことを妬みます。そのときにヤーゴは何をしたか、というと、オテロの妻デズデモナとカッシオが不倫関係にあるとオテロに信じ込ませるわけです。オテロは嫉妬に狂い、デズデモナを殺し、自殺します。
「信念型」の方は、一度自分の信念をつくると、現実に合わないことでも、とことんこだわります。その「信念」が「妄想」のようになると、自分で自分の首をしめるような気持ちになったり、行動をとったりするわけです。

第2幕冒頭、ヤーゴは自分の「信念」を語ります(「聴け、オレの信条を」)。
「オレは極悪非道、人間であるがために、生まれながらの泥沼が感じられるのだ、そうだ!これがオレの信条だ!」
「信念型」の方は、自分の考え(信念)をとにかく聴いて欲しいのですね。

そして、何か「信念型」の方に何かをしてもらうとき、「~していただけますか」とお願いしていただきたいです。「~ください」だと命令されているように、自分の信じていることと反することを命じられているような気分になりやすいです。この辺は「想像型」や「行動型」の方々と異なります。

こんな風に書くと、「信念型」の人って「悪人」のように思われるかもしれません。その「信念」が人を守ったり、自分の仕事に忠実であると、素晴らしい成果をもたらすことがあります。

ワーグナーの楽劇「ワルキューレ」に登場する女性の主人公、ブリュンヒルデは実に感動的に自らの「信念」に沿って父ヴォータンの本心に尽くそうとします。
彼女の父ヴォータンは主神で戦いの神です(そしてヴォータンは「行動型」)。愛を失ったヴォータンは後権力欲に駆られて世界の支配を試みます。人を支配しようとすれば、悩みは当然深くなります。その弱みにつけこまれたヴォータンは、戦場で彼の息子ジークムントが敗れるようにするよう、ブリュンヒルデに命じます。ブリュンヒルデは最初父の命令に不承不承ながらも従おうとします。そして、ジークムントに会って話をするうちに、ジークムントを守ろうとします。結果的には戦いの場面でヴォータンが介入してジークムントは死にますが、ブリュンヒルデは最後までジークムントを守ります。

ブリュンヒルデの「信念」は、英雄ジークムントを救いたいことと、父ヴォータンの本当の気持ちを大切にすることでした。
「私は賢くありません。しかし、ただ一つのことを知っていました。あなたがヴェルズンク(ここではジークムントのこと)を愛することを、忘れようとするあなたの心の葛藤を私は知っていました。」
「私はそのことをあなた(ヴォータンのこと)の目の中に見たのです。私はジークムントをみなければなりませんでした。死を予告して、私は彼の前に現れ、私は彼の目を見、彼のことばを聴き、英雄(ジークムントのこと)の聖なる危急を知ったのです。彼のために仕えたい、そのことばかり考えたのです。勝利か死か、ジークムントと運をともにする、これこそが私が選ぶべき運命だと悟ったのです。この愛をわが心に与えた人、ヴェルズンク(ジークムント)と私を結ばせたこの人、この人(ヴォータン)に忠実でありたいと私はあなた(ヴォータン)の命令を拒んだのです」。

彼女は自分の「信念」を貫き通そうとしました。それが敬愛するヴォータンの命令に背いて反感を買って罰を与えられます。そして同時に父ヴォータンから深い愛情という最高のご褒美をもらえました。
第3幕のラストシーンでヴォータンは歌います。オペラ史上、最高の名場面の一つといってよいでしょう。
「さらば、勇ましき輝かしい子よ、さらば、さらば。」「私より幸福な男にこの瞳の星は輝けばよい、不幸な神には、この瞳の星にも別れを告げる」

「信念型」の方の信念が仕事の方向性とマッチしたとき、熱い情熱をもって取り組むため、素晴らしい成果を生み出します。組織のなかでは、中間管理職になりやすいタイプです。ということは、就職・転職活動中の方には、将来の上司になりそうな方が面接官として会う可能性が高いですので、「信念型」対策をお勧めしています。

そして、私の個人的な感想です。私の周りの個人事業主の方は、どうも「信念型」の方が多い気がしています。
自分の信念と情熱で仕事をしたいのかもしれません。